社会思想としての「フェミニズム哲学」
講義概要
本講義は現代において最も重要な思想的トピックの一つであるフェミニズムとその哲学理論を概説する。フェミニズムは、女性や性的マイノリティが性別を理由に不当な扱いを受ける、また不利益をこうむることに対して声をあげること、そうした不利益をこうむることがない社会をめざす社会運動ないしその理論を指す。例えば、世界中の著名人が自分の体験について「#Me Too」を付けてSNSで発信する抗議ムーブメントは日本でも盛り上がりをみせ、フェミニズムが人種や世代を超えてタイムリーに共感し合える関心事であることを示している。その一方でフェミニズムは、過激な女性尊重という世間の誤ったイメージもあり、自分がフェミニストであると公言することをためらう人もいるかもしれない。本講義では、英米圏でフェミニズム哲学の教科書として定評が高いMason, E. (2021). Feminist Philosophy: An Introduction. Routledgeを中心にしつつ可能な限り日本語でアクセスできる重要文献も参照して、女性や性的マイノリティの社会的地位向上をめぐる主張や議論を理解するために必要になる概念とその操作を概説する。前半パートは、とりわけオーソドックスな哲学や政治学との違いに注目しながらフェミニズム哲学の理論的な解説に集中しつつ、後半パートからは徐々に社会生活のなかで身近なトピックを通じて考えてゆく。よって、本講義の達成目標は、上記の概念の正確な理解とその操作に親しみ、履修者が自分でも運用できるようになることである。
注意事項
- 本講義は、一般教養科目としてのフェミニズム論やジェンダー論から踏み込んだ概念整理や哲学的な議論が含まれており、それなりに難易度が高いということを付言しておく。ただし、オーソドックスな哲学や政治学についての予備知識は必要なく、初学者でも理解できるようかみ砕いて説明するように心がける。
- フェミニズムは、女性のための社会運動ないしその理論という側面は否定できないが、とりわけ現代フェミニズムは、性別のみならず、人種、宗教、性的指向などを理由にした差別や構造的抑圧を是正することを目指す動きとしても理解できる。本講義もまた、女性はもちろんのこと、あらゆる性別や人種、性的志向をもつ学生に開かれている。むろん男性マジョリティの履修も歓迎したい。
- 本講義は、テーマの性質上、ジェンダーやセクショナリティなど、個人のプライバシーやアイデンティティに関わる話題に踏み込む内容になっており、妊娠中絶やポルノグラフィ、セックス、レイプ、ハラスメントなどのトピックを扱うことには注意されたい。
- 妊娠中絶やポルノグラフィ、セックス、レイプ、ハラスメントなどのトピックを扱う際には、講義前の注意喚起はもちろんのこと表現にも注意するが、皆さんも思いがけず気まずくなったり気分が悪くなることもあるだろう。そこで本講義では、講義中の教室の出入りを自由としたい。わたしの許可を得る必要はない。上記の理由以外にも、トイレや眠気覚まし、バイトで早く帰りたいなど、些末な理由でも自由に出入りして構わない。
単位取得条件
- 学期末の記述テストと平常点(出席ないしリアペ)でS/A/B/C評価に見合った成績を得ること。
- 学期末テストと平常点のバランスやその加点方法は初回講義で説明する。概ねテスト70%平常点30%くらいのイメージ。
- 単位取得は難しく設定していない。ただしS/A評価はシビアにつけている。もう少し具体的にいうと、B/C評価は、清水晶子『フェミニズムってなんですか』文春新書や加藤秀一『はじめてのジェンダー論』有斐閣ストゥディアなどで整理されているような、フェミニズムやジェンダー論についての教科書的な理解を得ていると思われるテスト答案を作成すれば与えられる可能性が高いが、S/A評価については、一定ラインの出席率とともに講義で概説する概念やその操作を適切に理解する必要がある。
講義用資料
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参考資料
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履修者向け基礎文献